## 伏見稲荷は「行く時期」で全然違う場所になる
正直、最初に行ったときは失敗した。
3月の連休だった。新幹線を降りて、JR奈良線の稲荷駅(京都駅から8分、みやこ路快速は止まらないので普通列車に乗ること)に着いたのが10:23。すでに参道の鳥居付近は人で埋まっていて、有名な「千本鳥居」の写真を撮ろうとしても、どこを向いても誰かの背中が映り込む状態だった。あれは少し、心が折れた。
でも2回目は1月の平日朝、07:15に到着した。別の場所かと思うくらい静かだった。
伏見稲荷大社は、京都市伏見区にある稲荷神社の総本宮で、全国に約3万社ある稲荷神社の頂点に立つ。創建は711年とされる(奈良時代より前、ということになる)。境内は山全体に広がっていて、稲荷山の山頂(標高233メートル)まで歩くと往復で2〜3時間かかる。入場料は無料。ただ、それが逆に人を集めすぎる原因にもなっている気がする。
時期の選び方が、ここでは本当に重要だ。
## 月別に見る伏見稲荷の実像
**1月**
静かだ。ただし、正月三が日(1日〜3日)は例外で、初詣客が例年250万人以上訪れると言われている(日本全国で上位の初詣スポット)。三が日を避ければ、1月中旬以降は閑散期に入る。気温は4〜9℃程度で、朝は冷える。防寒必須。でも、霜の降りた朝の鳥居はかなりいい。
**2月**
一年で最も空いている月のひとつ。平日の午前中なら、千本鳥居をほぼ独占できることもある(少し大げさかもしれないけれど、体感としてはそれに近い)。節分(2月3日前後)は少し混むが、節分祭の雰囲気は悪くない。気温は3〜10℃。梅がちらほら咲き始めるころ。
**3月**
春分の日あたりから急に人が増える。卒業旅行シーズンと、外国人観光客の本格的な増加が重なる。桜はまだだが「もうすぐ春」という期待感で人が動き始める。週末は混雑必至。平日早朝(08:00前)に入れるかどうかで、体験の質が大きく変わる。
**4月**
桜の季節。伏見稲荷の境内にも桜の木はあるが、正直に言えば、お花見の名所として特別優れているわけではない(花見なら円山公園や哲学の道のほうが向いていると思う)。でも、鳥居と桜の組み合わせを写真に収めたい人には4月上旬が狙い目。混雑は3月より激しい。インバウンドのピークと重なる。
**5月**
ゴールデンウィーク(4月末〜5月初旬)は言わずもがな、非常に混む。5月中旬以降はやや落ち着く。気候的には過ごしやすく、山頂まで歩くなら5月後半が個人的にはいちばん楽だと思う。気温が上がりきる前で、新緑の中を歩ける。
**6月**
梅雨。雨の伏見稲荷は独特の雰囲気がある。濡れた朱色の鳥居、霧、誰もいない参道。確かに写真映えはするが、山道が滑りやすくなるので、スニーカーは底のしっかりしたものを選んでほしい。混雑は少ない。ただ、蒸し暑さが体にくる。水分補給を忘れないこと。
**7〜8月**
暑い。本当に暑い。日中の山道は熱中症リスクがある。それでも、宵宮祭(7月中旬)や本宮祭(7月末)の時期は夜間参拝ができて、これがかなりいい。提灯で照らされた鳥居、夜の参道。昼間とまったく別の顔を見せる。もし夏に行くなら、朝6時台か夜19時以降に絞ることをおすすめする。
**9月**
残暑が続くが、月末には少し落ち着く。観光客数は夏のピークより減り始める。シルバーウィーク(9月中旬の大型連休)は混む。それを外せばわりと快適。
**10月**
秋の観光シーズン開始。気温が下がり、歩きやすくなる。でも人も増える。修学旅行のシーズンでもあって、午前中は学生の団体が多い(これはこれで活気があって嫌いではないが、静かさを求めるなら平日の夕方が狙い目かもしれない)。
**11月**
紅葉シーズン。京都全体がピークの混雑になる。伏見稲荷の山中にもモミジはあるが、嵐山や東福寺ほどの紅葉密度はない。それでも観光客は相当数来る。この月に行くなら、宿は1〜2ヶ月前の予約が必要で、周辺の宿泊費も年間で最も高くなる。
**12月**
師走に入ると人が減り始める。年末(25日以降)は少し増えるが、11月よりはずっと静か。空気が澄んでいて、山頂からの眺めが冬の澄んだ青空の下でよく見える(晴れた日に限るが)。冬至のころの夕暮れが早いので、山頂を目指すなら14:00より前に入山したほうがいい。
## 混雑する「ハイシーズン」と静かな「ローシーズン」
大まかに言うと、ハイシーズンは以下の時期に集中する。
正月三が日、3月下旬〜4月(桜)、ゴールデンウィーク、7〜8月の夜間祭り期間、11月の紅葉シーズン。
ローシーズンは1月中旬〜2月、6月(梅雨)、9月、12月中旬。
ただ、「ローシーズンだから完全に空いている」とは言い切れない。伏見稲荷は外国人旅行者にも人気が高く(一時期、外国人旅行者が選ぶ日本の観光スポット1位だった時期もある)、平日でも一定数の訪問者がいる。本当に静かな体験をしたいなら、時期よりも「時間帯」のほうが重要かもしれない。07:00〜08:30に入山し、人が増える前に千本鳥居を抜けることが、個人的に最も効果的だと感じている。
## 予算への影響:時期によってどれだけ変わるか
伏見稲荷大社自体は境内無料、山頂まで無料。これは変わらない。
変わるのは周辺の宿泊費と交通費だ。
京都市内の宿泊費は、11月の紅葉ピーク時にもっとも高くなる。同じホテルでも、繁忙期と閑散期で1泊あたり5,000〜15,000円以上の差が出ることは珍しくない(これは体感的な数字で、宿のグレードによって大きく変わる)。2月や12月中旬に行けば、同じ宿をかなり安く取れる場合が多い。
京都駅〜稲荷駅のJR運賃は150円(2024年現在、確か変わっていないと思うが念のため確認を)。これは時期によって変わらない。
ただ、食事の面では、周辺の茶屋や土産物店の価格は年中ほぼ一定だ。参道のきつねうどんが780円前後、稲荷寿司の小パックが400〜600円程度(店によって異なる)。季節による価格変動はほぼない。
一人旅で行くなら、宿泊を京都市内ではなく大阪に取って日帰りで訪れるという手もある。新大阪〜稲荷駅は乗り換えを含めて40分前後(確か)。宿泊費は大阪のほうが全般的に安い傾向がある。
## 結局、いつ行けばいいのか
一人旅を前提に、個人的な優先順位でまとめると:
**最もおすすめ:2月の平日**。空いている、価格が安い、冬の澄んだ空気の中で歩ける。防寒さえできれば、他の時期より格段に静かな体験ができる。
**次点:6月の梅雨(雨の日)、12月中旬**。前者は雨の伏見稲荷という独特の雰囲気を求める人向け。後者は年末の慌ただしさの中でひっそり山を歩きたい人向け。
**避けたい:11月の土日、ゴールデンウィーク、正月三が日**。これは体力と精神力を消耗する。
そういえば、友人に「伏見稲荷は一回行けばいい」と言われたことがある。でも私は今まで5回行っていて、行くたびに違う顔を見ている。2月の霜の朝、7月の夜の祭り、6月の霧の中の鳥居。同じ場所で、これだけ違う体験ができるのは珍しい。
あなたはどの季節の伏見稲荷を歩いてみたいと思うだろうか。