## 京都でとんかつ、という選択について
ちょっと待って。
京都に来てわざわざとんかつを食べるの?という声が聞こえてきそうだ。正直、私もかつてそう思っていた。でも10年間、東山の和菓子店で働きながら京都の食文化を見てきて、今は少し考えが変わっている。京都の人はとんかつが好きだ。地味に、静かに、でも確実に愛されている。
烏丸御池や四条河原町の周辺には、何十年も続くとんかつ専門店がある。観光客向けの湯葉や京懐石とは別の、もっと生活に根ざした食文化として。そして意外なことに、「いつ行くか」がとんかつ体験の質を大きく左右する。
## 月別で見る京都とんかつ事情
**1月・2月(静かな冬)**
1月中旬から2月末は、京都観光のいわゆるオフシーズン。寒い。本当に寒い(底冷えという言葉を初めてリアルに理解したのは、東山で働き始めた最初の冬だった)。でもこの時期、とんかつ屋は空いている。
ランチのピーク時間(12:15前後)でも、人気店で並ばずに入れることが多い。定食のご飯・味噌汁・キャベツおかわり自由というスタイルのお店なら、ゆっくり食べられる。価格は通常通り。ロースかつ定食で1,200円〜1,800円が京都の相場だと思う(念のため各店のウェブサイトで確認を)。
**3月(梅と花見前)**
3月上旬はまだ落ち着いている。でも中旬から空気が変わる。桜の開花予報が出始めると、週末の京都は一気に人が増える。特に清水寺や岡崎周辺のエリアは混雑が激しくなり、飲食店全般が混み合い始める。
とんかつ店はそれでも3月中旬くらいまでなら比較的穏やか。まあ、桜目的の観光客はとんかつよりも湯葉懐石や甘味処に流れることが多いから。
**4月(桜シーズン本番)**
混む。とにかく混む。
四条・烏丸エリアの定食屋やとんかつ専門店は、昼前から行列ができることもある。待ち時間が30分を超えることも珍しくない。価格そのものは変わらないが、混雑でゆっくり食べられない雰囲気になることがある(回転を急かされるわけではないけど、後ろに並んでいる人の視線を感じるというか)。
4月に京都に来るなら、とんかつは11:15開店と同時に入るか、14:00以降のすいた時間を狙うのが賢い。
**5月(ゴールデンウィーク)**
正直、ゴールデンウィークの京都は覚悟が必要だ。
5月3日〜6日あたりは、どの飲食店も激混みになる。人気のとんかつ店によっては整理券を配布するところも出てくる。予算への影響は直接的ではないが(価格は変わらない)、時間コストが大きい。1時間待ちも想定しておいたほうがいい。
ゴールデンウィーク明けの5月中旬〜下旬は、一転して静かになる。個人的にはここが穴場だと思っている。新緑が美しく、気候も良く、混雑が嘘のようにひいている。
**6月(梅雨)**
雨が多い。じめじめする。
でもとんかつにとっては悪くない季節だ。観光客が減り、地元の常連さんが戻ってくる。店内の雰囲気がいつもの日常に戻る感じがある。私はこの時期の京都のとんかつ屋が好きだ。カウンターで職人さんと話せたりする。
価格も通常通り。梅雨の京都は旅行者には不人気かもしれないが、食事をじっくり楽しみたい人には悪くない選択だと思う。
**7月・8月(夏の祇園祭シーズン)**
7月は祇園祭がある。宵山(7月14日〜16日)と山鉾巡行(17日・24日)の前後は四条周辺が歩行者天国になり、飲食店は大賑わいになる。
とんかつ屋も例外ではない。ただ、真夏のとんかつは個人的に少し重く感じる(これは完全に個人の感想だけど)。夏は冷やし系や軽めの料理に流れる客が多いのか、7月下旬〜8月は意外に混雑が落ち着くお店もある。
8月の京都は暑さが本当に厳しく、外で並ぶのがつらい。エアコンの効いた店内でとんかつを食べるのは悪くないが、体力的に消耗している状態で行くのは覚悟がいる。
**9月(初秋)**
9月前半はまだ夏の延長。残暑が厳しい年も多い。でも中旬以降、空気が少しずつ変わってくる。
観光客の数は夏よりも落ち着き始める。地元民が戻ってくる。とんかつの脂が美味しく感じられる季節の入り口だ。確か9月下旬になると、常連さんが「そろそろとんかつの季節やな」と言い始めるのを聞いたことがある(東山の店で働いていた頃の記憶)。
**10月(紅葉前)**
10月中旬まではまだ比較的穏やか。これが最後の静かな時期と言えるかもしれない。
価格も通常通り、混雑も適度。気候は涼しく過ごしやすい。個人的には、とんかつを食べるのに一番バランスがいい月が10月だと思っている。
**11月(紅葉シーズン)**
4月の桜と並ぶ、京都最大の繁忙期。
11月中旬〜下旬の京都は、嵐山・東福寺・永観堂などに人が押し寄せる。とんかつ屋も混む。特に観光地に近い店は4月以上に混雑することもある。
烏丸御池あたりのビジネス街寄りのとんかつ店は、観光客の流入が比較的少ない(観光客は嵐山方面に流れるから)。狙い目は平日のランチ、それも11:30開店と同時か14:30以降。
**12月(年末)**
12月上旬はまだ紅葉の余韻で混雑が続く。でも中旬以降は急速に落ち着いてくる。年末の12月28日〜31日は閉まっている店も多いので注意が必要だ(確認必須)。
12月中旬のとんかつは美味しい。寒くなった体に脂がしみる。
## ハイシーズンとオフシーズンの実際
まとめて言えば(いや、まとめは禁止なのでそれぞれ考えると)、混んでいる時期と空いている時期はこうなる。
ピーク(混雑・注意が必要):4月の桜、5月のゴールデンウィーク、11月の紅葉、7月祇園祭前後。
比較的穏やか:1月中旬〜2月、5月下旬〜6月、9月下旬〜10月。
重要なのは、京都のとんかつ店の多くは価格を季節で変えないということだ。1,500円のロースかつ定食は桜の季節も梅雨も同じ1,500円。ただし、昼食なのに2時間かかるリスクはハイシーズンにはある。時間も旅の予算のうちだと考えるなら、オフシーズンはコスパが高い。
## 予算への実際の影響
京都のとんかつ専門店の価格帯を大まかに言うと:
ランチ定食(ヒレかつ・ロースかつ):1,200円〜2,200円程度。夜の単品や豪華版は3,000円以上になることもある。老舗の高級店では5,000円を超えるコースも存在する(念のため各店舗で確認を)。
季節による価格変動はほぼない。ただ、紅葉・桜シーズンは近隣の宿泊費が跳ね上がるので、食事予算を削らざるを得ない旅行者も出てくる。そういう意味では間接的に「予算がない中での食事選択」になりうる。
テイクアウト需要が増えるハイシーズンに、弁当タイプのかつサンドや持ち帰りセットを出す店がある。相場は780円〜1,200円程度で、行列を避けながらとんかつを楽しむ一つの方法だ。
## 結局、いつ行けばいいのか
これは人によって違う、と言ってしまうのが正直なところだ。
京都の観光とセットで食事として楽しみたいなら、10月か5月下旬を私はおすすめする。気候がよく、混雑がほどほどで、とんかつの脂が美味しく感じられる気温でもある。
一方、「とんかつが主目的で京都に来る」という人(そういう人がいるかどうかわからないけれど)は、2月の底冷えの平日がいい。ゆっくり座れて、職人さんと話せて、店の空気がちゃんと感じられる。
そういえば、去年の2月の寒い日に四条から少し外れたとんかつ屋のカウンターに座ったとき、隣の常連のおじさんが「京都の人間はとんかつが好きやねん。でも観光で来た人は気づかんねん」と笑っていた。あれは何日だったか、手帳を見ればわかるはずだ。
あなたはどの季節に京都でとんかつを食べてみたいだろうか。