
## 日本茶と季節、その切っても切れない関係

緑茶は、季節に縛られている。
これは比喩ではなく、文字通りの話だ。京都・宇治で10年近く和菓子の仕事をしていたとき、隣の茶問屋のご主人にそう教わった。「同じ茶葉でも、摘む時期が一週間ずれるだけで、全然別の飲み物になる」と。当時はそこまで深く考えていなかったけれど、今になってようやく実感している。

でも、観光や買い物で京都を訪れる人に「日本茶を買うならいつ?」と聞かれると、答えるのが意外に難しい。目的によって、正解が変わるからだ。新茶の感動を体験したいのか、コスパよく良質な茶葉を手に入れたいのか、それとも限定品を狙っているのか。
ここでは、月ごとの特徴と、時期による価格の違いを、できるだけ正直に書いていく。

## 月別ガイド:1月〜12月の日本茶事情
**1月・2月:静かな熟成の季節**

茶畑は眠っている。新芽が出る気配もない、冬の宇治や和束(京都府南部の主要産地)は、どこか別の土地のように静かだ。この時期に茶問屋の店頭に並んでいるのは、前年に摘まれて熟成された茶葉が中心になる。
味は落ち着いていて、丸みがある。新茶の青々しい刺激はないけれど、その分、甘みが前に出てくる。正直、この時期の熟成煎茶(いわゆる「古茶」)を飲んで初めて、熟成の意味がわかった気がした。

価格は比較的安定している。100gあたり800〜1,500円あたりが標準的な煎茶の価格帯で、年明けセールをやっている店もある(確か錦市場近くの茶葉専門店で見かけた記憶があるが、毎年やっているかどうかは要確認)。
**3月・4月:待つ喜び、新茶の予感**
まだ本格的な新茶シーズンではない。でも、茶農家や問屋の間では、今年の出来への期待と緊張が高まっている時期だ。
3月下旬になると、一部の早摘み茶(主に鹿児島や静岡産)が市場に出回り始める。宇治茶はもう少し後。この時期に京都の茶葉専門店を訪れると、「今年の新茶はいつ頃ですか?」という会話が自然に始まる。それ自体が、ひとつの京都体験だと思う。
**5月:新茶の最盛期、これを外したら何を外す**
5月は特別だ。
ゴールデンウィーク明け、おそらく5月10日前後から(年によって多少ずれる)、宇治の新茶が出荷され始める。この時期の煎茶は、鮮やかな緑色と、口に含んだときのあの青い香り——正式には「若葉香」と呼ぶらしいが——がとにかく強烈で、他の時期の茶葉とはまるで別物だ。
価格は跳ね上がる。宇治の高級玉露だと100gで5,000円を超えることも普通にある。茶問屋の店頭では、新茶の一番摘みを限定販売していることが多く、整理券が配られる店もある(宇治橋通り沿いの老舗で、朝08:30頃から並ぶ人を見たことがある)。
ただ、予算が限られているなら、ブランドにこだわらない産地直売の新茶が100gで1,200〜2,000円程度で手に入ることもある。宇治市の道の駅や、和束の直売所が狙い目だと思う。
**6月:価格の落ち着きと二番茶の登場**
新茶ブームが少し落ち着く。5月の騒ぎが嘘のように、6月の茶問屋は静かになる。
この時期から「二番茶」が出始める。一番茶(新茶)に比べると渋みが増すが、その分タンニンが豊富で、深みのある味わいが楽しめる。茶道の世界では必ずしも高評価ではないけれど、日常的に飲む緑茶としてはむしろこちらの方が合う、という人も多い。価格は100gあたり600〜1,200円程度と、一番茶より落ち着く。
**7月・8月:夏の茶葉と冷茶の需要**
暑い。京都の夏は正直、外を歩く気力が奪われる。でも、冷茶の文化がこの季節に輝く。
水出し緑茶用に特別にブレンドされた茶葉や、冷茶向けの玄米茶が専門店に並ぶのがこの時期だ。観光客向けに小分けパック(10g×5袋で600〜800円あたり)が充実する傾向もある。
夏摘み茶(三番茶・四番茶)は渋みが強く、単体で飲むより料理や菓子に使われることが多い印象だ。
**9月・10月:秋の訪れと「秋冬番茶」**
9月に入ると、徐々に茶葉の雰囲気が変わる。
この時期の注目は「秋冬番茶」または「晩秋番茶」と呼ばれる茶葉で、茎や古葉まで含めてざっくり摘んだものを焙じて飲む。カフェインが少なく、体に優しい。妊婦さんや子どもにも勧めやすい、ということで最近また注目されているらしい(確か上京区の自然食品店で見かけた)。
価格は比較的手頃で、100gで400〜900円程度。
**11月・12月:年末贈答と熟成茶の本番**
師走の京都は、贈答用の日本茶が動く時期だ。
高級な抹茶(100gで3,000〜8,000円という価格帯は普通にある)や、丁寧にパッケージされた煎茶の詰め合わせが贈り物として出回る。この時期に四条烏丸や烏丸御池周辺の茶葉専門店を訪ねると、贈答用の包みを抱えた人で賑わっている。
## ハイシーズンとオフシーズン:価格への影響
日本茶の「ハイシーズン」は、間違いなく5月だ。
新茶が出回るこの時期は、宇治市内の茶問屋が最も活気づき、観光客も増える。でも、その分価格も上がる。同じ茶農家の同じ品種の煎茶でも、新茶として売り出す5月と、翌年の1〜2月に在庫として売られる時期とでは、20〜30%程度の価格差が出ることもある(これはあくまで私の体感で、正確な数字は店ごとに違う)。
オフシーズンに相当するのは、1〜3月と10〜11月あたりだと思う。この時期は観光客も少なく、茶問屋のご主人とゆっくり話せる機会も増える。それ自体が、茶葉を選ぶときの参考になる。
まあ、値段だけで時期を選ぶのは少しもったいないとも思う。季節ごとに日本茶の顔は変わるので、何度か訪れて比べてみるのが理想的だ(それができる環境にある人は、という条件付きだけれど)。
## 予算別・時期別のざっくりした目安
予算が限られているなら(100g以内で1,500円以下)、6月〜8月の二番茶か、1〜2月の熟成煎茶が狙い目だと思う。渋みはあるが、日常使いには十分な品質のものが見つかる。
5,000円以上の予算があるなら、5月の新茶シーズンに宇治の茶問屋を直接訪ねることを勧めたい。その年の気候や摘み時の話を聞きながら買う体験は、他の時期では得られない。
贈り物目的なら、11〜12月の年末商戦は選択肢が豊富だ。ただし、この時期は限定品がすぐに売り切れることも多いので、目当てのものがあれば早めに動く方がいい。
## 最後に、一つだけ問いかけを
あなたが日本茶に求めるものは何だろう。
「感動」なら5月の新茶を。「日常の一杯」なら初夏から夏の二番茶を。「静かな深み」なら冬の熟成茶を。それぞれに、ちゃんと意味がある。
去年の11月、東山区の小さな茶問屋で、60代くらいのご主人が「うちはね、新茶よりも秋以降の茶葉の方が得意なんですよ」と言っていた。その言葉が、なんとなく頭に残っている。日本茶を巡る旅は、まだ続いている気がする。
